大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)330号 判決

控訴人等訴訟代理人は「原判決中控訴人等勝訴の部分を除きその余の部分を取消す。東京都杉並区長が昭和二十五年三月二十三日附で控訴人広田猛夫、同橋口寛蔵、同阿部喜代志、同宇田川浩一、同伊東きよ及び訴外大菅房次郎に対し、また同年八月二日附で控訴人嶋津よしのに対しそれぞれ与えた建築許可に附随する別紙目録記載の条項中条項(一)、(二)、(四)の全部及び(五)、(六)中の条項(三)に関する部分を除いた部分並びに条項(七)の全部及び(九)中の条項(八)に関する部分を除いた部分が、いずれも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人等訴訟代理人において、原判決事実摘示中「本件条項を総括的に見て……権限外のものと言うべきである」(原判決四枚目、記録第一七三丁、裏末行より五枚目、記録第一七四丁、表六行目まで)との趣旨は、「広場に指定せられた区域内の土地(殊に宅地)を買収もせず、収用もせずに長年間そのままとして、その使用を絶対に禁ずるがごとき、もしくはこれを使用して地上に建物を建築する場合には何時でも無償で取払をしなければならないという条件を附するがごときは、いずれも名を公共にかり正当な補償をせずに都のために私有財産を使用するものに外ならぬのであつて、都市計画法第十一条の二及び同法施行令にいわゆる都市計画上必要な条件の限度を逸脱するものである。」との意であると述べ、被控訴人訴訟代理人において、被控訴人が本訴について当事者適格を有しない旨の本案前の抗弁は撤回すると述べ、なお当事者双方訴訟代理人において、原判決三枚目記録第一七二丁裏二行目に「昭和二十五年」とあるは「昭和二十二年」同七行目に「百二十三番地」とあるは「百二十二番地」の誤記であると述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(各証拠省略)。

三、理  由

東京都杉並区荻窪三丁目百二十一番、百二十二番、百二十三番の土地(以下本件土地と略称する)が、東京都都市計画において国鉄中央線荻窪駅前広場に指定され、昭和二十二年十一月二十六日戦災復興院告示第一二三号(建設省第一二八号は誤り)をもつて右駅前広場設定事業施行年度の決定を見たが、昭和二十四年五月十日右決定は廃止されたこと。控訴人広田猛夫、同橋口寛蔵、同阿部喜代志、同宇田川浩一、同伊東きよが昭和二十四年十二月十三日附で右百二十一番の土地につき、訴外大菅房次郎が同日附で右百二十二番の土地につき、控訴人嶋津よしのが昭和二十五年七月二十九日附で右百二十三番の土地につき、それぞれ被控訴人に対し建物建築申請をしたところ、杉並区長は昭和二十五年三月二十三日附で控訴人広田、同橋口(寛)、同阿部、同宇田川、同伊東及び訴外大菅に対し、同年八月二日附で控訴人嶋津に対し、それぞれ都市計画上必要であるとして別紙目録記載の条項(以下本件条項と略称する)を附して建築許可をしたこと。右控訴人等及び訴外人はこの建築許可にもとずいてそれぞれその土地に建物を建築したこと。訴外大菅の右百二十二番の土地についての建築許可申請は昭和二十五年七月二十二日その一部が控訴人竹中昇に、同年八月三日その残余のうちの一部が控訴人松永正三に、それぞれ申請人名義が変更され、右百二十三番地の土地についての建築許可申請は同年七月三十日(昭和二十四年は誤り)その一部が控訴人今平直次郎に、同年八月三日その残余が控訴人橋口クニに、それぞれ申請人名義が変更されたが、訴外大菅房次郎は昭和二十六年八月九日死亡し、控訴人大菅広吉、同大菅喜美代において右房次郎の申請人としての権利義務を共同相続により承継したことは、いずれも当事者間に争がない。そして杉並区長の本件建築許可は、地方自治法第百五十三条第二項、第二百八十三条、東京都規則(昭和二十三年第二百号東京都区長委任事項)第七十二号、都市計画法第十一条の二、同法施行令第十一条の二、第十二条により、杉並区長が東京都知事から委任せられた権限にもとずき、都市計画上必要であるとして本件条項を附してこれをなしたものであることが弁論の全趣旨に徴し明らかである。

控訴人等は、本件条項は、総括的にみて、名を公共にかり正当の補償をなさずして私有財産を使用することに外ならず前掲都市計画法、同施行令にいわゆる都市計画上必要な条件の限度を逸脱することとなるから右条項は無効であると主張するについて審按する。(もつとも右条項中条項(三)の全部並びに(五)及び(六)の各三に関する部分、条項(八)の全部並びに(九)中(八)に関する部分は、いずれも原審においてその無効を確認する旨の判決があり、この部分については被控訴人から控訴がないので、当審の判断の対象にはならないことを附言する。)都市計画法施行令第十一条の二において、都市計画法第十一条の二の広場等の境域内に建物を新築等をしようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を定めているのは、その反面都道府県知事は都市計画を急速かつ円滑に実施する等の必要があるならば、その自由裁量により新築を許可しないことも可能である趣旨といわなければならない。しかも同令第十二条によれば、右の許可をするについても、必要な条件を附することができるのである。そうだとすれば被控訴人東京都知事(知事の委任を受けた杉並区長を含む、以下同じ)が本件建築許可について本件条項を附したからとて、これを総括的に見て控訴人等の既得の権利を当然侵害するものではなく、控訴人等に建築許可という利益を積極的に与えるについて、ある制限を加えたに過ぎないものであつて、別段法律で認めた条件を附し得る権限を逸脱したものということはできない。

よつてさらに右条項を個別的に検討するに、条項(一)は、被控訴人が駅前広場事業施行に必要な場合に地上物件の移転を命じうる趣旨と解されるから、いまだその必要がないにかかわらずこの条項を盾に濫りに移転を命じたような場合に、控訴人等においてこれを拒否し得べきことは当然であるが、これは該条項を実際に施行するに当つての問題であつて条項の内容そのものの適否には係わりがない。条項(二)は、建物等地上物件の撤去によつて生ずるすべての損害、たとえば建物を取壊す場合における建物の価額、または建物を他に移転する場合における移転の費用、及び営業に関する損害等の補償を被控訴人に対して要求しない趣旨と解せられる。本来都市計画が真近に実施せられる予定であるごとき場合には、むしろ空地に建物の新築等の許可をしないのを可とすべきであるが、後記認定するような経緯のもとに、控訴人等(名義変更前の出願者を含む)は東京都の荻窪駅前広場設定事業計画の存することを知りながら、なおそこに家屋を建築することを切望し、東京都知事の代行者としての杉並区長に対し、右広場事業施行の場合には、異議をいわずに新築建物を撤去すべきにつき建築を許可せられたい旨の請書や念書を提出し、あらかじめ本件(一)、(二)のような条項を附せられることを承諾したので、同区長も本件条件附の建築許可をしたものである事情にかんがみるも、むしろ出願者等の希望に副つた建築許可が与えられたものであつて、仮りに控訴人等が予期していたところに反する著しく早き広場事業施行の実現がなされたとしても、本条項自体を目して控訴人等の既得の私権を何等の補償なくして侵害するものというには当らない。条項(四)も、建物を撤去する場合にその建物に担保物権を有する者があると、急速円滑ということの上に支障を生ずるおそれがあるから、あらかじめかかる条件を附するのも、あえて違法というべきではない。条項(五)ないし(七)(ただし条項(五)及び(六)中各(三)に関する部分を除く)についての当裁判所の判断は、原判決の理由中にそれぞれ説示するところと同一であるから右理由の記載(原判決十五枚目記録第一八四丁表五行目より同丁裏四行目まで、同丁裏九行目より同十六枚目記録第一八五丁表六行目まで、同丁表十一行目より同丁裏三行目まで、但し第一八四丁裏一行目「本件条項(三)に於けると同様」とある部分を除く)をここに引用する。なお控訴人等は、以上の条項中(一)、(二)、(四)、(五)は将来一切の補償をなさずに私有財産を収用もしくは制限するものであるから、憲法の趣旨に違反する(弁論の全趣旨からこれは第二十九条に反する意と解する)ものであると主張するが、すでに前示総括的にみて説示し、また各条項を個別的にみて説示したように、建築許可をするについて公共の福祉に適合するように、法律で認められた条件を附したものに外ならず、且ついずれの条項を検討してみても、別段控訴人等の主張する如く憲法違反ということにはならない。また条項(九)(ただし条項(八)に関する部分を除く)は、条項(七)の公正証書作成に要する費用の負担者を定めたに過ぎないものであつて、何等無効とすべき理由がない。

ちなみに、杉並区長が本件条項を附した建築許可をなすに至つた経緯は、上述の当事間に争のない事実と成立に争のない甲第一号証の一、二乙第一号証、同第四号証、原審証人塩沢弘、原審及び当審証人外岡賛五郎、当審証人菊地喜一郎、同石原正雄(一部)の各証言、原審及び当審における控訴人広田猛夫、当審における控訴人橋口寛蔵の各本人の供述(一部)を総合すれば、控訴人広田、同橋口(寛)、同阿部、同宇田川、同伊東及び訴外大菅房次郎等は、本件土地(百二十一番、百二十二番)上に建物を建築しようと思い、昭和二十四年十二月頃あらかじめ杉並区役所に建築を許可して貰えるかどうかを問合せたところ、同区役所の外岡建築課長は当時右土地に対する荻窪駅前広場設定事業施行年度の決定は廃止せられていたが、ふたたびその施行年度の決定があるかどうかは不明であつたので、許可する意向を洩らした。そこで右控訴人五名及び訴外大菅は、同年十二月十三日被控訴人に対し建築許可の申請をしたが、杉並区長は右土地は駅前広場に指定されているので、慎重を期して東京都(建設局)にその指示を仰いだところ、東京都は右広場設定事業はその費用が水害対策費に流用され予算がなくなつたため、一時延期的にその施行が廃止されたが、予算が取れ次第事業を施行することになるから、その施行に支障を来すことのないよう建築許可は一応見合せられたい旨指示してきたので、同区長は右控訴人六名及び訴外大菅に対し、右指示の趣旨を伝えて建築申請を不許可とした。ところが同人等はさらに同区長に対し広場事業施行の場合は、いかなる条件でも異議をいわず新築した建物を撤去すべきにつき、建築を許可せられたい旨懇請し、その旨の請書(乙第一号証)を提出し、さらに控訴人広田よりは念書(乙第四号証)を提出したので、同区長は東京都(建設局)とも協議し、右控訴人六名及び訴外大菅より、あらかじめ本件条項を附することの承諾をえた上、昭和二十五年三月二十三日附で同人等に対し右条項を附した建築許可をなしたこと。また控訴人嶋津は、同年七月二十九日本件土地(百二十三番)上に建物を建築するため、被控訴人に対しその許可申請をなしたので、杉並区長は、前記控訴人等に対し附したと同一の条項を附することを承諾するならば、建築許可をなす旨申入れたところ、これを承諾したので、同年八月二日附にて本件条項を附したる建築許可をなしたことが認められる。右認定に牴触する前掲証人右原正雄の証言、同控訴人広田猛夫、同橋口寛蔵の各供述部分は措信し難く、他に該認定を左右するに足りる証拠がない。

これを要するに杉並区長が本件建築許可に附した前記各条項はいずれも前示説示の如く無効であるとは解せられないから、これが当然無効であることを前提としその無効確認を求める控訴人等の本訴請求は、これを失当として棄却すべきものとする。原判決は右と同趣旨に出で相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第一項に則りこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九十五条、第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

目録

(一) 駅前広場事業により都知事が移転を命じた場合は三カ月以内にその物件を完全に広場境域外に撤去すること。

(二) これが撤去により生ずる総ての損失については都知事に対しその補償を一切要求しないこと。

(三) 第一号の期間内に撤去しない場合は行政執行法により代執行せられるも異議を申立てないこと。

(四) 許可を受けた建築物は一切担保に供しないこと。

(五) 許可を受けた建築物を他に転貸又は譲渡する場合は、転貸を受ける者又は譲渡を受ける者が前四号の各条件に従うことを予め承認せしめその承認を証する書類を区長に示し区長の承認を受けなければならない。

(六) 前五号の各条は建築申請者及び転貸又は譲渡を受けた者の相続人にもその効力が及ぶこと。

右六項の条件に関して左の私法上の措置を行ふ。

(七) 区と建築主との間に於て履行確保契約の公正証書を作成すること。

(八) 建築主から建築竣工届があるや直に前記公正証書に基づいて売買譲渡及び質権設定禁止の仮処分をなしその事を登記すること。

(九) 右(七)、(八)に要する費用は申請者がこれを負担すること。

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